STRUCTURE「牛肉のしくみ」

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我々が普段食べている肉は、当たり前だが筋肉である。筋肉は、骨格に付着して運動を司る骨格筋、消化管や血管などに分布する平滑筋、心臓を構成する心筋に分類される。骨格筋が正肉、平滑筋と心筋がホルモンということだ。

 

<正肉の構造>

正肉となる骨格筋は筋線維と間質で構成される。間質には結合組織、血管、神経、脂肪組織などが含まれる。骨格筋の両端は腱を介して骨格に付着し、収縮によって骨格を動かす。筋線維の細胞内部は筋原線維と筋漿(きんしょう)で構成される。ちなみに筋漿の“漿”とは液や汁を意味する。この筋漿(きんしょう)には細胞液及び溶存するタンパク質、細胞核、ミトコンドリア、グリコーゲンなどが含まれ、肉の味や風味と関連した物質が多く含まれる。

間質の大部分は筋肉細胞外に形成された結合組織だ。骨格筋に存在する結合組織には数種の膜があり、筋肉組織を一定の形状に保持し、収縮時に発生する張力を骨格に伝達する役割を担っている。筋線維の束が膜で覆われて(筋内膜)、それらを互いに結合し筋肉になっている(筋周膜)と考えればよい。さらにそれら筋肉の外側を覆い、筋肉間の隔壁や筋膜を形成している(筋上膜)のも結合組織だ。いわゆる“スジ”と呼ばれる部分などがこの筋肉の外側の結合組織である。

この結合組織である膜に、成長に必要な量を上回る栄養分が吸収されると脂肪組織が出現し、この脂肪組織が膜に均等に分布すると、我々が大好きな霜降り肉になる。

スネ肉が硬くヒレが柔らかいのは、この膜の量の違いによるものであり、若齢の牛の肉が柔らかく、老齢の牛の肉が硬いのはこの膜の質の違いによるものだ。人間も加齢とともに体が硬くなるが、同じ原理であろう。そしてよく動かす部位が、動かない部位よりも硬くなるのは、この膜が運動によって発達し、量が増えるためと思われる。

筋肉の構造

<正肉の成分>

肉の主成分はタンパク質と脂肪であり、三大栄養素の一つである炭水化物の含有量が少ないのが特徴だ。およそ水分70%、タンパク質20%、脂肪10%で構成される。極めて栄養価の高い良質の食品であり、かつ動物体組織そのものであるため健康に害を及ぼすような物質は含まれず、安全性にも富んだ食品だ。

肉の主成分のおよそ70%を占める水分には自由水と結合水が存在する。自由水は温度、湿度など外的条件で比較的簡単に移動が起こりうる水分で、微生物の繁殖に資する水分であり、結合水はタンパク質などと結合した水分で、微生物が繁殖に用いることができない。古くからの保存食品の製造においては、この性質を利用して食品中の自由水量を減少させることで微生物の繁殖を抑制し、保存性を向上させる方法を用いる場合が多い。つまり自由水が多いか、結合水が多いかによって、微生物が繁殖しやすいかどうかが決まる。塩や砂糖を加えると食品が腐敗しにくくなるのは、塩や砂糖が自由水と結合し、自由水の割合が低くなるためだ。

水分に次いで多いのがタンパク質であり、そのタンパク質自体を構成するのがアミノ酸だ。アミノ酸の中には、人間にとって必須とされる9つのアミノ酸がある。この9つのアミノ酸を人間は自分の体内で合成できないため食物から摂取する必要がある。この9つのアミノ酸のうちどれか1つが欠けても筋肉や血液、骨などの合成ができなくなるため、9つのアミノ酸全てを摂取しなくてはならない。そして食物に含まれるアミノ酸の組成は食物ごとに異なる。人間が必要とする必須アミノ酸の含有量を評価する指標にアミノ酸スコアというものがある。アミノ酸スコア100という食物は、9つのアミノ酸がすべて100%含有されている理想的なアミノ酸組成を持つ食物だ。そして代表的なアミノ酸スコア100の食物がまさに牛肉なのである。牛肉がいかに優れた食品であるかがおわかりであろう。ちなみにニンジンはアミノ酸スコア55なので、ニンジンだけでは必須アミノ酸全てを摂取することはできない。

さらにタンパク質は大きく筋線維タンパク質と結合組織タンパク質に大別できる。筋繊維のタンパク質の主要成分にはミオシン、アクチン、コネクチンなどがあり、熟成による肉の軟化に対して大きな影響を与える。結合組織には筋上膜、筋周膜、筋内膜などの膜がある。これらは主にコラーゲンで構成されており結合組織タンパク質の大部分を占める。その性質は肉の硬さに直接的に影響する。加齢によって肉が硬くなるのは、コラーゲン分子内および分子間に架橋を形成して不溶性になるためだそうだ。コラーゲンは加熱すると水溶性のゼラチンに変化する。すね肉などいわゆる筋が多い部位を長時間加熱調理すると柔らかくなるのはこのおかげである。

脂質は全て中性脂肪で構成されている。中性脂肪は単に脂肪とも呼ばれ、中性を示すことからこの名で呼ばれている。脂肪の融点は中性脂肪を構成する脂肪酸の飽和度及び炭素数の違いに起因する。パルミチン酸やステアリン酸のような飽和脂肪酸を多く含む牛肉は融点が高く、リノール酸のような不飽和脂肪酸を多く含む豚肉や鶏肉の融点は低いと一般的に言われるが、和牛の中には不飽和脂肪酸を多く含むものも存在する。不飽和脂肪酸は人間の体温以下で融け、口の中に入れたときの舌触りも滑らかにする。肉の脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸がコレステロールを上昇させるという説から肉が悪者扱いされることがあるが、最近の研究ではステアリン酸やパルミチン酸もむしろコレステロールを低下させるという報告もある。筋線維の束の間の結合組織にも脂肪が蓄積するが、この筋内脂肪は脂肪交雑として牛肉の品質を左右する重要な一因である。

肉に含まれる糖質の含有量は約0.3%以下と極めて低く、熟成期間中の解糖作用により大部分が乳酸に分解されてしまう。したがって熟成後の肉には糖質は微量しか含まれていない。

 

参考:

沖谷明紘 編 『肉の科学』 朝倉書店

みかなぎ りか 著 『極上を味わう 和牛道』 扶桑社

『特例財団法人 日本食肉消費総合センター』 ホームページ