COOKING 「炉窯による火入れを学ぶ・実技編」

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牛肉の生食が一般的に禁止されている現在において、我々は火を入れることで牛肉を愉しむ。

ところで加熱処理は食中毒を防ぐという目的のためだけに用いられるのではない。

ヒトによる火の使用の起源については様々な説があるが、イスラエルのゲシャー遺跡における79万年前から69万年前の痕跡が現時点では確実と呼べる証拠の中で最古のものと考えられている。 火の使用によりヒトは肉を加熱調理し、動物性タンパク質の摂取を容易にした。加熱調理された肉の消化に必要なエネルギーは生肉の状態よりも少なく、加熱調理はコラーゲンのゼラチン化を助け、炭水化物の結合を緩めて吸収しやすくし、更には病原となる寄生虫や細菌を減少させた。

しかし火の使用による変化はそれだけではないだろう。

加熱調理されることにより、肉の香ばしさや芳醇な肉汁、旨みは飛躍的に向上する。ヒトは生命の維持を目的として肉を食べることに加え、喜びを感じるために肉を食べるようになったのではないだろうか。

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数ある牛肉の部位の中でも、その王様はサーロイン。

誰もが認める偉大かつ高貴な人物にのみ与えられる“Sir”の称号を持った唯一の部位だ。

サーロインほど、その個体の良し悪しや本質が出る部位もないだろう。

更に、数えきれないほどこのサーロインを食べた結果、この素晴らしさを感じる最良の焼き方は炉窯による炭火焼きではないかと、個人的に辿り着いた。

そこで今回、今後の焼き人生の財産となるように、炉窯での焼きを学んできた。

協力してくれたのは、銀座にある神戸ビーフ・但馬牛に拘った”炉釜ステーキIDEA”の料理長・一宮さん、焼き担当の菅井さんだ。

一宮さんは元々フレンチのシェフで、炉窯ステーキのお店でミシュランの星を獲得している。

菅井さんはあの“あら皮”を筆頭に、20年以上炉窯で肉を焼き続ける職人さんだ。

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焼く前にするべきは、まず筋や余分な脂を取り除く掃除。

筋肉の中に張り込んだ筋も丁寧に取り除き、食べた時に筋が口の中に残るのを防ぐ。

肉が冷たすぎる場合は、ここで常温にしばらく置き、内部までしっかりと熱を伝えやすくする。

串は肉に対して真っ直ぐではなく、斜めに串が交差するように2本打つのだが、これは安定感を高め、炉窯の中でも熱源との距離を自在に操れるようにするため。

串に刺した肉に、厚みを考慮して塩と胡椒を振り、それを手で馴染ませる。

塩を振る際は高いところから均等に降りかかるようにするのもポイント。

また塩については、焼く前に振ったり、焼いた後に振る、もしくはその両方など、選択肢があるが、炉窯で分厚いステーキを焼くのであれば、味が馴染みやすいよう、焼く前に振るのが理に適っている。

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ここからいよいよ炉窯が登場する。

炉窯の特徴は大きく分けて2つある。

1つは効率的な輻射熱、もう1つは酸素供給量の調整が可能なこと。

熱せられた炉内石壁からの照り返しの熱線は、より効率的な輻射熱となる。

また、炉内は空気口の開閉により炉内の酸素供給量を容易に調整できる為、サシの入った牛肉を焼いても炎が立ちにくい。

また、炉内の炭は大きさを揃え、隙間がないように敷き詰めることにより、焼きムラを避けるだけでなく、炭と炭の間に酸素が入りにくく、より炎が立ちにくくなる。

赤々と燃える炭の状態を確認した後は、炉窯の蓋を下ろして内部の温度を高め、いよいよ肉を炉窯に投入。

肉と炭の距離は数センチ、驚くほどスレスレに肉を置き、再び蓋を下ろす。

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酸素供給量を制限しているため、炉窯内で炎が上がることはない。

そして肉汁や脂が爆ぜる音に耳を傾け、炉窯内の肉の状態に全神経を集中する。

ある瞬間に炉窯から漏れる音の質が変わるとのことだが、寸分狂わずにこれを把握するのは、相当な経験が必要だ。

てんぷら職人が揚げる際の音に耳を傾けるのと一緒なのだろう。

ちなみに”銀座かわむら”の河村シェフも音で焼き加減を判断していると以前おっしゃっていた。

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菅井さんの合図で炉窯から肉を取り出すと、焼き面は見事なメイラード反応が起きている。

見事としか言いようがない、流石だ。

続いて肉を裏返し、再度同じ工程を繰り返す。

両面をしっかりと火を入れた後は、炉窯内の温度の低い場所でゆっくりと余熱を入れていく。

炉窯には肉を焼くために必要な要素が全て揃っているのだ。

肉にもう1本串を打ち、内部の温度を確認する菅井さんは、「あと○分○○秒で仕上がります」とさらっと言いのける。

これも初心者には全く把握できない感覚だろう。

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そして仕上がった肉を炉窯から取り出すと、周囲は香ばしい匂いに包まれ、胃袋が刺激される。

焼き上がったステーキの表面は紙一枚のパリッとしたクリスピー感があり、内部はゼリーの様な滑らかさを残している。

今まで焼いてきたどの熱源とも違う。

手取り足取りサポートしてもらいながらも焼き上げたサーロインの旨さは言葉で言い表せないものだ。

炉窯の機能、効果を実感し、炉窯の職人の技術にも感動した。

1度と言わず何度もチャレンジし、何とか1人で仕上げられるようになりたいもの。

お店が許してくれるのであれば。。。

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なお、この日使用された牛肉についてはブログ

”No Meat, No Life.[http://d.hatena.ne.jp/BMS12/20150501/1430430509]”をご参照ください。