COOKING「熱のハナシ」
<熱の種類>
熱には大きく3つの種類がある。
①対流熱 ②伝導熱 ③輻射熱(放射熱)
加熱調理とはこの3種類の熱が組み合わされて食品に伝わる状態である。
熱は温度の高い場所から低い場所に移動し、同じ温度になろうとする。この熱の特性を利用して食品を加熱していく。つまり熱源と食品表面の温度差によって熱が伝わっていくのだ。一気に表面を熱した場合、熱源と食品表面の温度差がなくなり、熱の移動が行われなくなる。食品の内部まで熱を入れようとすれば、食品表面の温度を上げすぎないように気を配る必要がある。
<対流熱>
空気や水蒸気などの気体、あるいは水や油などの液体を媒介にし、これらを熱することで動く気体や液体を食品に接触させることで熱を伝える。気体や液体が熱くなるとその分子は激しく動いている状態になる。この分子が食品の分子にぶつかり、食品の分子が動き出すことで摩擦熱が発生し、温度が上がっていく状態だ。
<伝導熱>
金属の棒の先端を加熱すると、徐々に熱がもう一方の端まで伝わり熱くなる。これが伝導熱である。食品の場合、高温の鍋やフライパンに食品を接触させ、高温側である鍋やフライパンの熱が、低温側である食品の表面から徐々に内部に伝わっていく状態などを言う。鍋やフライパンに接している部分の食品の分子が高温にさらされることで動きだし、その分子が内部の分子とぶつかることで内部の分子も高温になっていく状態だ。
<輻射熱(放射熱)>
赤外線によって伝わる熱。ただし赤外線それ自体は熱エネルギーではなく、ある波長をもった光のエネルギーである。つまり赤外線そのものに熱はなく、物体にあたらない限り熱は発生しない。物体に赤外線が当たると、赤外線は物体表面に吸収される。それによってその部分の分子が振動させられ、その摩擦熱によって加熱されていくのである。赤外線が放射されて物体にぶつかると、
①反射 ②吸収 ③透過
という3つの反応が起こるが、このうち加熱に寄与するのは②の吸収されたエネルギーのみである。赤外線は波長の短い近赤外線と、波長の長い遠赤外線に区別されるが、近赤外線の方が食品内部まで深く入り込む。ただしどちらも食品表面付近で吸収されてしまうので、赤外線が食品内部まで到達することはない。よく「遠赤外線が食品内部まで深く浸透し、素早く焼ける」という表現を目にするが、赤外線の特徴から考えるとこの表現は適切ではない。素早く焼けるかどうかは赤外線の効果ではなく、熱量の大きさで決まる。遠赤外線自体はエネルギー密度が低いため、本来加熱速度は低い。
<直火焼き>
肉を直火で焼くと、おいしいし楽しい。直火で肉を焼くという行為は人間の野生本能を刺激する。そんな興奮を手軽に味わえるのが焼肉料理の醍醐味の一つであるが、焼肉においては、肉は網に接していない部分は直火焼きの状態で加熱されていく。肉には主に熱源周辺で熱を帯びた空気の対流熱や熱源からの輻射熱によって熱が伝えられていくが、網を介して伝わる伝導熱も影響する。ガス火の場合は対流熱の割合が高く、炭火焼の場合は輻射熱の割合が多い。赤外線は空気や水を媒介しないため、例えばうちわで風を起こしてもその伝わり方には影響しない。対流熱及び輻射熱によって肉の表面温度が上がり、一方で内部は、表面からの伝導熱によってゆっくり加熱される。
<炭火焼き>
炭火焼きの特徴は、遠赤外線の多さと、熱量の大きさだ。炭火から牛肉に伝わる熱の約80%は輻射熱で、ガス火よりも大量の遠赤外線を放出する。そして熱量の大きさは熱源の表面温度に由来するが、炭火の表面温度は約800~2000℃にもなり、他の熱源よりも大きな熱量を牛肉に伝えることができる。また炭火焼きの場合、加熱時に生じる香り成分の比率にも違いが生じると言われ、好ましくない香り成分(脂肪族アルデヒド類)が少なく、好ましい香り成分(ピラジン類やピロール類)が多いことが実験で確かめられているそうだ。炭火というととかく遠赤外線の効果ばかりが注目されるが、これらのことが総合的に作用するから「炭火焼きはおいしい」のである。
<ガス火>
よく「ガスで焼くと、ガスの臭いがつく」と言われるが、本来ガスは無臭であり、安全性を考慮して人工的に臭いが付けられている。ガスを完全燃焼させると二酸化炭素と水蒸気のみが発生するが両者とも無臭である。ただし不完全燃焼すると燃焼しなかったガスが存在するため、このガス臭が食品に移ることになる。炎の噴出口が詰まった状態の時に不完全燃焼を起こすため、まめに噴出口のメンテナンスをする必要がある。またガスの直火焼きの場合、燃焼時に生じる水蒸気が食品に触れて水滴化し、それが加熱されて蒸発する際に蒸発熱として熱エネルギーが放出される。つまり本来食品に伝えたい熱が、蒸発時に奪われることになり表面温度が上がりにくくなる傾向がある。着火や火力調整など、火のメンテナンスのしやすさはガスのメリットだが、直火でおいしく食品を焼き上げるためには注意とコツが必要だ。
参考:
斎藤秀美著 『おいしさを作る熱の科学』 柴田書店
社団法人 遠赤外線協会ホームページ