STRUCTURE「牛肉が旨い理由」

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<“旨い”の構成要素>

“旨い”とはどういうことか。その構成要素は、食べる前に認識できるものと食べてはじめて認識できるものに大別できる。前者には形状、色、光沢、香りなどがあり、後者には味、香り、テクスチャー(食感)、温度などがある。

<形状>

牛肉の“旨い”に関係する形状としてはきめ、さし、締まりがある。これらは肉の格付にも大きな影響を与える。

きめは骨格筋を繊維方向と直角方向に切った時の断面で判断する。筋線維の束の配置によって作られる模様だ。きめが細かいというのは、個々の筋線維の束が細いことを意味し、束が細いとそれらを束ねている膜も薄く、したがって膜の強度も小さいため加熱調理したときに軟らかくなる。よく運動したり、強い力を発揮する筋肉は一般的にきめが粗い。

さしはご存じの通り脂肪交雑のことで、筋肉の結合組織に分布する。筋周膜と筋内膜にまんべんなく分散している様がいわゆる霜降りという状態で、肉眼で確認できるのは筋周膜の脂肪だ。ちなみに、と蓄してすぐの枝肉は牛の体温により湯気が立っており、肉眼では鮮やかなサシ(脂肪交雑)は確認できないが、冷蔵庫で冷やすことによって、鮮明にサシが浮き出てくる。

さしが入るほど肉質は軟らかくなる。これは脂肪組織の方が、他の構造物よりも強度が小さいためだ。また細かく分散した脂肪は肉のテクスチャーに滑らかさを加え、かつ脂肪由来のこくを加える。牛肉のさしは血統、肥育、環境によって左右されるといわれているが、そのメカニズムにはいまだ不明な点が多い。

締まりは肉の断面に水分が浮いているような状態になっていなく、赤身と脂肪がしっかりと詰まっているとよく締まっている状態と判断される。

<色>

肉の品質に影響するのは赤身と脂肪の色だ。赤身の色は筋線維内のタンパク質の一種であるミオグロビンに由来する赤色であり、加齢に伴ってミオグロビン含有量が増えるため色が濃くなる。ロイン部を切り出し空気に触れさせておくとミオグロビンに酸素分子が付着し、鮮紅色を発する。この反応をブルーミングという。この色が格付けの一要素になる。

純粋な脂肪の色は白色だが、植物に多く含まれるカロチノイド系色素が脂肪に溶け込んで付着するとやや黄色がかった色になる。つまり脂肪の色は飼料に由来する部分が大きい。

<テクスチャー>

テクスチャー(食感)は歯触りと口触りである。歯触りは噛んだ時の硬軟、弾力、線維のほどけ具合などである。口触りは舌や口内の粘膜で感知する接触感覚で、滑らかさ、ざらざら感、ねばねば感、ジューシーさ(多汁感)、などである。

<硬さ>

肉の硬さを決めるのは、筋線維とそれらを包んでいる各種の膜である結合組織、そしてその結合組織に形成される脂肪組織である。

筋上膜は筋線維の束の外側を覆い、筋肉間の隔壁や筋膜を形成する膜であるが、これは俗に“すじ”と呼ばれ調理の前に除去されるので、肉の硬さに影響を及ぼすことは少ない。

残りの筋周膜と筋内膜の厚さ(量)と強度(質)が主に肉の硬さに影響する。

これら膜の主成分はコラーゲンである。個体サイズが大きい動物ほどその体を支える骨格筋は大きな力を出す必要があるため、筋線維を保持するコラーゲンも丈夫になる。よって牛肉が一番硬く、豚、鳥の順番に軟らかくなる。また成獣になるまでコラーゲンの量が増加する。若齢の獣の肉が軟らかいのはこのためだ。また加齢とともにコラーゲン線維同士の結合が強くなるために肉が硬くなる。

脂肪組織は筋線維や結合組織よりはもろいので、脂肪交雑が著しい、即ちさしがよく入った肉は軟らかくなる。また脂肪は加熱すると融解して軟らかくなり、冷却すると元に戻る性質を持つ。タンパク質が加熱すると不可逆的に凝固して硬度を増すのと対照的だ。

<味>

人間は味を舌で知覚する。肉の成分で舌に接触するのは水分、タンパク質、脂肪、水溶性非タンパク態化合物である。死後硬直後で熟成前の骨格筋における構成比はおよそ水分75.5%、タンパク質18%、脂肪3%、水溶性非タンパク態化合物3.5%。水分とタンパク質は無味だ。脂肪も無味だが、味への影響がある。そして肉の味の大部分を決めるのは、構成比わずか3.5%である水溶性非タンパク態化合物だ。

味の基本となるのが甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つで、これを基本五原味という。タンパク質自体は無味だが、これが存在する細胞内には必ず遊離アミノ酸とペプチドがある。生物の体内ではタンパク質は常に分解し、分解した分がまた新たに合成されており、その原料としてのアミノ酸と分解物としてのペプチドが一定量プールされている。このアミノ酸のうち、うま味に大きな影響を与えるのはグルタミン酸、イノシン酸(IMP)、アスパラギン酸などだ。

<香り>

肉の香りには、生肉の時の香り(生鮮香気)と加熱した時の香り(加熱香気)がある。熟成前の生肉には生肉臭があるが、乳酸、血液、体液などの臭いだと考えられる。熟成すると酸臭や血液・体液臭が減少し、独特の甘い香気が発生する。通常我々はこの状態の臭いを嗅いでいるわけだ。

加熱香気には煮たときの香気(肉スープ香気)と、焼いたときの香気(肉ロースト香気)、動物種特異臭がある。このうち肉ロースト香気を発生させるのが、アミノカルボニル反応、またらメイラード反応と呼ばれる化学反応だ。これは香ばしさを伴う臭いで焙煎香気とも呼ばれる。

 

参考:沖谷明紘 編 『肉の科学』 朝倉書店