BREED「品種」

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世界中には多数の品種の牛がいる。人間がその肉を食べる事を主な目的としている肉用牛や、牛乳を搾る事を主な目的としている乳牛や、それ以外に未だに農耕用の牛もいるのかもしれない。ここでは肉用牛、とりわけ肉好きの心を鷲掴みして離さない黒毛和種を中心に話を進めていきたい。

まず、「和牛」と呼ばれるのは「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4種があり、この4種間の交雑も和牛と呼ばれる。「国産牛」という表示をスーパー等で見かけることが多いが、これは品種を表す名称ではなく、国内における飼育期間が外国における飼育期間よりも長い牛を国内で屠畜して生産されたものを指す。

和牛以外の品種では、乳牛である「ホルスタイン種」、「ジャージー種」、「ブラウンスイス種」等がある。他にも肉牛である「アバディーン・アンガス種」、「ヘレフォード種」、「シャロレー種」、「シンメンタール種」等がある。

また、「F1」と呼ばれるものがあるのだが、これは異なる品種を掛け合わせて生まれた固体のことで、「交雑種」とも呼ばれる。日本では一般的に、ホルスタイン種の雌に黒毛和種の雄を交配したF1が多い。毛の色は基本的に黒だが、一部に白い斑点がでることがある。何故この様なF1が生産されるのかだが、以下のような理由が考えられる。

・   乳牛であるホルスタイン種は牛乳を搾ることが主目的だが、当然、妊娠した牛からしか牛乳は搾れず、ホルスタイン種は妊娠する必要がある。

・   当然、ホルスタイン種同士で交配させるが、その結果、雌が生まれれば乳牛としての価値が高いが、雄が生まれた場合は肉用牛となり、しかも商品価値は低い。

・   その為、ホルスタイン種の雌と黒毛和種の雄を交配して、母親のホルスタイン種は牛乳が搾れる状態になり、子牛は肉用牛として肥育される。

このF1は、ホルスタイン種の様に身体は大きいが、肉質はホルスタイン種よりも食肉に向く。ちなみに、千葉の「マザー牧場」では、片側が黒毛和種、もう片側がF1という牛舎の中を見学でき、両方を比べることができる。

 

<和牛の品種>

「和牛」という言葉から連想するイメージは、和牛が古来から日本に存在する品種であるということであるが、実際は、和牛とは日本の在来種と外国の品種を交配して誕生した品種なのである。品種それぞれについては以下を参照していただきたい。

①    黒毛和種

日本の在来種に、ブラウンスイス種やデボン種、シンメンタール種等の外国種を交配し、そして改良を重ねた品種である。外国種の交配については、県毎に方針が違っていたりしたようだ。現在の飼育頭数は日本国内の約95%を占めている。肉にはサシと呼ばれる脂肪交雑が入り、その柔らかな肉質は、他の品種では味わえない。また、生産については、ストローと呼ばれる冷凍精子による人工授精が主流で、世界有数の血統管理が行われている。

②    褐毛和種

在来種の中でも朝鮮牛に外来種を交配した品種だが、主に2つの系統が存在する。シンメンタール種を交配した熊本系と、韓国種を交配した高知系がそれである。同じ褐毛和種でも、この2つの系統は違いがあり、熊本系は高知系に比べて身体が大きく、高知系は黒毛和種に次いでサシが入りやすい。

③    日本短角種

東北地方の在来種である「南部牛」にショートホーン種を交配した品種で、「夏山冬里」と呼ばれる夏は放牧し冬は里に下す方法で飼育される。当然、交配も自然交配が中心であるため、子牛は春に生まれるのが一般的であり、黒毛和種のように一年間満遍なく出荷するのは難しい面もある。

④    無角和種

山口県の在来種にアバディーン・アンガス種を交配した品種。その名の通り、角がない。特徴としては、毛の色は黒だが、黒毛和牛に比べて発育や増体の面で優れていて短期肥育が可能であること。また、飼育頭数が非常に少なく、都内でも無角和種を食べれるお店は少ない。

 

また、日本には4つの品種の和牛のほかに、現在でも在来種も残っている。1つは「見島牛」で、山口県の見島で飼育されている。黒毛和種の基となった在来種と考えられており、その肉質は非常にサシが多い。現在では天然記念物に指定され、子牛が生まれると、雌はそのまま見島で飼育されるが、雄で見島に残されるのは繁殖用として一部、残りは去勢後に肥育され、食用に出荷される。ホルスタイン種の雌に見島牛の雄を交配して「見蘭牛」と呼ばれるF1も存在する。もう1つは「口之島牛」で、鹿児島県トカラ列島の口之島で野生化したものだ。

 

<銘柄和牛>

牛肉には数多くのブランド牛肉があり、他との差別化を図っていたりするが、産地、血統(品種)、格付け、飼育方法等によって、それぞれ基準を満たすものに対して付けられている。一般的には地域毎にブランド牛肉を命名しているが、肥育農家個人で命名しているブランド牛肉もある。

この地域毎のブランド牛肉の定義は様々で、広い地域で使用されているブランドであれば、基準はあまり高くない場合も多い。というより、多くの生産者を取りまとめる側の考えを考慮すれば、基準は高過ぎず低過ぎずの水準になるのが当然かもしれない。そういった背景から、消費者側が、単にブランド牛肉の名前に惑わされることは避けるべきであろうし、これからは個人によるブランド牛にもっとスポットが当たるのかもしれない。

以下に、サシの量だけでない、味へと繋がるこだわりの基準が設けられているブランド牛肉等をいくつか紹介したい。勿論、これらはあくまでも例であり、他にも素晴らしいブランド牛肉は多数ある。

①    但馬牛

定義の1つに、兵庫県産の但馬の血統の子牛を兵庫県内で肥育したもの、という基準がある。但馬の血統については後述するが、これは兵庫県以外で真似することは非常に困難で、とにかく近年の日本の黒毛和種の地位を築き上げたのは但馬の血統の力が最も大きいだろう。

②    神戸ビーフ

定義の中に、兵庫県産但馬牛のうち、枝肉重量が470kg以下で肉質等級が4以上の品質、という基準がある。あの但馬牛の基準を更に厳しくしたものが神戸ビーフなのだ。特に枝肉重量に関しては、近年の黒毛和種が大型化している中で、肥育効率を無視し、肉質の繊細さを考慮した素晴らしい基準ではないだろうか。また、神戸ビーフ・但馬牛は雌牛ではなく去勢の比率が非常に高い。これは遺伝的に優秀な但馬血統の雌牛は、松阪牛や近江牛の有力生産者に買われてしまうのが原因ではないだろうか。

③    松阪牛

日本で一番有名なブランド牛肉だろう。そのブランド牛肉の定義は昔と違ってきているのだが、それでも日本一の自負を支えるのが未経産雌牛のみが松阪牛を名乗れる、ということだろう。現時点では去勢を認めず、未経産雌牛にこだわっているのは地域ブランド牛肉では松阪牛だけではないだろうか。ちなみに去勢と未経産雌牛では、サシの融点や旨みも違うと言われている。また、忘れてならないのが「特産松阪牛」の存在だ。松阪牛の中でも兵庫県産の但馬牛を子牛とし、900日以上肥育されたものが、その称号を得ることができる。最高の血統の雌の子牛、肉自体の旨みが高まる長期肥育という、肉好きなら涎が止まらない基準が設けられている。

④    米沢牛

現在(2012年12月)では、他のブランド牛肉に圧倒的な差をつける要素は少ないかもしれない。ただし、2014年12月から基準を一部変更し、未経産雌牛であることと、枝肉牛量の制限を加える予定のようだ。松阪牛や神戸ビーフへの対抗意識かどうかは分からないが、こういった勇気ある決断をする生産者の方々には賛辞を贈りたい。

⑤    近江牛

正直、他と比べて特に厳しい基準があるわけではない。しかし、古くから黒毛和種の肥育の歴史があり、今でも但馬の血統や、昔ながらの肥育方法にこだわりを持った生産者が多数いるようだ。

 

<但馬牛>

但馬牛は、皮膚や被毛、角、蹄、体の締まり等の外見上の資質が優れているだけでなく、身体中に細かなサシが入り、脂や肉の味も優れていることでも有名である。

但馬牛は、兵庫県内で生まれた黒毛和種で、父母はもとより祖父母、先祖代々の血統をさかのぼっても、その全てが兵庫県内生まれた牛だけである。ここが他県の黒毛和種と違っていて、但馬牛以外の血を入れないことで、その優れた能力を現代に残し続けている。

現在の黒毛和種全般に言えることだが、明治期には在来種にブラウンスイス種やデボン種、シンメンタール種等の外国の品種を交配させて改良する時期があった。但馬牛には主にブラウンスイス種が交配されたが、「肉質が劣る」等の理由により、すぐに中止され、中止された後は、純粋な但馬牛と違う形質が出た牛は全て淘汰された。この為、外国品種との交配で但馬牛の血統は大きく変化していない、と言われている。そして、この教訓もあり、但馬牛以外の血を入れないという伝統が続いているのではないだろうか。また、外国品種との交配が中止された後、兵庫県内でも純粋な但馬牛が見当たらなかったが、但馬牛の生産の中心地と言える小代には、但馬牛の純粋種が4頭残っているのが分かり、但馬牛を救ったとも言われている。

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