STRUCTURE「4つの胃のハナシ」
一度飲みこんだ食物を再び口に戻して咀嚼(そしゃく:もぐもぐ)する行為を反芻と呼び、この反芻を行う動物をまとめて反芻動物と言う。ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダといった動物が反芻動物に含まれる。反芻動物は、飼料をほとんど咀嚼せずに胃の中に収める。その後、第一胃の内容物は口に戻され、咀嚼を行い、再び飲み込まれる。飲み込まれた内容物は、プロゾア、繊毛虫など第1胃の中にいる微生物によって分解され、動物のエネルギー源となる。
ご存じの通り牛の胃は第1胃から第2胃、第3胃、第4胃と4つある。「ミノ」と呼ばれる第1胃が最も大きく、全胃袋の容積の80%を占めており、成牛においての容積は約120リットルもあり、体重の10~15%に相当する食物を入れられる。その内面には、大小の毛のようなヒダが密生しており表面積を稼いでいる。この第1胃では消化酵素の分泌は無く、微生物の働きで消化が行われている。これを第1胃発酵と呼ぶ。胃の中の微生物は酸素が嫌いな嫌気性の細菌で、稲藁などのセルロースが入ってくるとその繊維やでんぷんを分解し、多量の酢酸・プロピオン酸・酪酸や、メタンガス・二酸化炭素を生じる。それら酸を食べて微生物は増殖を繰り返し、そのおすそ分けを牛がいただいている。酢酸・プロピオン酸・酪酸は揮発性脂肪酸と呼ばれ、第1胃から直接吸収されて、体内でエネルギー源として利用される。メタンガスや二酸化炭素は酸と一緒に、ガスとなって口から排出される。牛のゲップが臭いのはそのためだ。
第1胃内の微生物は、飼料のタンパク質を、一度アミノ酸とアンモニアに分解する。これらは微生物の体内に取り入れられ、微生物のタンパク質に合成される。こうして作られた微生物タンパク質は、飼料中のタンパク質に比べると遥かに栄養価が高く、これらのタンパク質は、第4胃以下で消化・吸収される。また尿素などの簡単な窒素化合物を利用して、栄養価の高いタンパク質を作る事もできる。つまり第1胃内のタンパク質の消化は栄養価の高いタンパク質への作り変えと言う事になる。さらに第1胃内の微生物はビタミンBを作り出す能力もあるので、ビタミンBを与えなくても牛はビタミンBの欠乏症を起こす事がない。第1胃に生息する微生物との共存関係が牛にとってどれほど大事かがお分かりかと思う。
「ハチノス」と呼ばれる第2胃は第1胃と連続し、内面には蜂の巣状のひだを持っている。このヒダを使い第1胃に大量の水を送り込むポンプの役割を果たし、強力な水流で第1胃の中を撹拌し消化を手助けする。お酒や醤油を発酵させるために、樽の中をよくかき混ぜるのと同じだ。
第3胃、いわゆる「センマイ」は内部に葉状のひだを持ち、第1胃から送られてきた内容物の水分をひだを使って絞り、第4胃に送る。
第4胃が、人間で言うところの胃にあたる。胃液を分泌させて、第1胃から送られてきた内容物や微生物を消化する。赤い粘膜から「赤センマイ」と呼ばれたり、「ギヤラ」と呼ばれたりする。
参考:
みかなぎ りか 著 『極上を味わう 和牛道』 扶桑社
『特例財団法人 日本食肉消費総合センター』 ホームページ