STRUCTURE「特集 牛肉解体新書」

断面写真

牛肉はもともと牛である。つまり家畜である牛を、と畜し、解体し、整形することで食肉である牛肉になる。そんな当たり前の工程を意識せずに、普段私たちは牛肉を頂いている。もちろんそれでも構わないのだが、牛が牛肉になる工程には、いろいろな人々の素晴らしい技術や、たゆまぬ努力の結晶が詰まっている。それらのおかげで、私たちは、あのおいしい牛肉を味わうことが出来ているのである。

魚が切り身でパック詰めされて売られることが当たり前になり、中には切り身のままで魚が存在していると認識している子どもがいるなどという報道を見聞したことがあるが、もしかしたら牛肉でも同じことが起きているかもしれない。そこまで酷くないにしても、当たり前のように口にしている牛肉が、どのようにして生み出されているかについて知ることは、皆さまの牛肉ライフにとって必ずやプラスに作用すると思われる。

そこで今回の特集は、牛肉の生産経路、解体及び整形の工程、そして流通経路にスポットを当ててみた。特に解体・整形の工程については、東京食肉市場の指定仲卸であり、松阪牛を東京に紹介・普及させたことでも有名な、株式会社吉澤畜産とその職人さん達の多大なるご協力により、動画で紹介させていただく運びとなった。その素晴らしい包丁さばきから、見事な牛肉が生み出されていく様にぜひともご注目いただきたい。

 

第1章 食肉の生産経路

牛がと畜され、その枝肉が食用として流通するまでには一連の処理工程を通る必要がある。牛を含む食肉用家畜のと畜および解体処理は「と畜場法」によって規制されており、公認の衛生的な設備をもったと畜場でと畜されなければならない。

獣医師であると畜検査員による生体検査、解体前検査、解体後検査を経て合格した枝肉に検印が押される。細菌による汚染と、急激に起こる化学的変化を抑えるため、通常2日間冷却されたのちに、牛肉枝肉取引規格による格付を経てセリにかけられ、卸売業者に渡る。

卸売業者の段階で、枝肉は大分割・小分割されて正肉となり、さらに余分な脂肪などを除去・整形して部分肉となり、プラスチック・フィルムに包装、箱詰めされ精肉として流通する。

以上が一般的な食肉の生産経路だ。

生産経路図

 

 

第2章 解体・整形

第2章では、牛肉の解体・整形を取り上げる。普段見ることの出来ない枝肉からブロック状までの加工過程を動画で紹介したい。

 ①     枝肉の4分割

クレーンで吊るされた枝肉をまず肩、バラ、ロイン、モモの4つのパーツに切り分けるのだが、この切り分けは「掛け流し(かけながし)」と呼ばれ電動ノコギリや包丁を使って行われる。電動ノコギリで分厚い肉を切り分ける迫力も凄いが、果物でも切るかのように枝肉を切り分ける包丁の切れ味、そして職人さんによる熟練の技にも驚かされる。まずは肋骨の6番目と7番目の間で切り分けられ、前側の肩、後側のバラ、ロイン、モモに分割される。ちなみに今回は右半身の解体を動画撮影しているが、左半身の肋骨の6番目7番目の間の断面の状態(ロース芯やバラの厚さ、サシの入り具合等)で格付けが行われる。

肩を外した後は、バラ、ロインの順に外してクレーンに吊るされたモモが残るのだ。ちなみに、バラとロインを切り分ける際に、カイノミをロインの中のヒレの一部として切り分ける方法とカイノミは全てバラとして切り分ける方法がある。後者は、九州スタイルと呼ばれるものでヒレにカイノミが全く付いていないが、関東ではカイノミの一部がヒレに付く切り分けが一般的である。ちなみに、カイノミの中でも、ヒレに付いた部分のカイノミは繊細な食感で非常にジューシーなのだ。次回カイノミを食べる際に気にしてみるのも面白いだろう。

②     肩の整形

肩を更に切り分ける作業は「肩割り」と呼ばれ、肩バラ、肩ロース、ウデの3つのパーツに切り分ける。まずはフックで吊るされたウデから肩バラと肩ロースの塊を外す。

続いて肩バラと肩ロースを切り分けるのだが、その前に包丁で骨を1本1本外していく。骨と肉の間に包丁の先を入れ、手際よく肉から骨を外していくのだが、丁寧かつスピーディーなその動きは、切り取るというよりも剥がしていくという表現の方が合っている。そして最後に肩バラと肩ロースを切り分けるのだが、この作業を見ると、特上カルビとして見かける三角バラ(肩バラの一部)とザブトン(肩ロースの一部)が1枚の大きな筋肉であることがよく分かる。1枚の筋肉でも位置によって脂の質感や赤身のキメが違うのが不思議である。

③     ウデの整形

肩割りで残されたウデは更にトウガラシ、前スネ、ウデ(狭義)に細分化される。ウデは太く逞しい骨と複雑な関節を含んでいるので除骨が大変そうだ。お肉を傷つけないようにしつつも、手際よく整形していく職人さんの動きに見とれてしまう。

トウガラシは、香辛料である唐辛子に似た形から、その名前が付けられている。そして、羽子板のような肩甲骨が剥がされると、ウデの一部として、焼肉屋さんで一般的になっているミスジが姿も現す。ウデ(狭義)はミスジ以外にも、赤身好きには堪らないウワミスジやクリ等を含んでいる部位である。

④     ロインの解体

ロインはサーロイン、リブロース、ヒレといった高級部位のオンパレード。吉澤畜産では、ロインの解体についてはその商品価値の関係もあり、親方と呼ばれる職人さんが担当しているそうだ。

まずはケンネと呼ばれる脂の塊が外されるが、これはすき焼き用の牛脂になったりする。続いてヒレが外されるが、肋骨群の内側に付いている筋肉であるヒレは、ハラミやサガリのように内臓側のお肉であることが分かる。ヒレは真っ白な脂に覆われており、その脂を掃除していくと、あの繊細な身が姿を現すのだ。普通肋骨の内側にある肉は副生物、すなわちホルモンとして流通するが、ヒレだけは正肉として流通する。

骨と身の間に包丁の刃先を滑らせ鮮やかに脱骨していく親方手捌きは、素人目で見ても凄さが分かる。

ヒレを外したロインを前後にカットして、前(肩側)リブロースで、後(モモ側)がサーロインである。うっとりする断面は細かなサシが散っていて、その個体がどれほどの上物であるかを物語っている。リブロースからサーロインに移るにしたがい、ロース芯は大きくなり、巻きやカブリ、エンピツは小さくなっていく。

⑤     モモの解体

内モモ、外モモ、シンタマ、ランイチ、トモスネといった非常に多くの部位に分けられる。筋肉が張った大きなモモの塊は、イタリアンで見かける生ハム用の豚モモとは迫力が違う。まずは、筋肉の流れにナイフを這わせ、内モモを外す。内モモを外すと見えるのがメガネ。稀に焼肉屋さんでメガネを見かけるが、なるほど股関節の骨がメガネのフレームで、お肉の部分がレンズというわけだ。

股関節と立派な大腿骨を外して、シンタマ、ランイチ、外モモ、トモスネに切り分ける。シンタマを更に細分化すると、最近ではメジャーになったトモサンカクやシンシンといった部位になる。モモの一番上側、つまりロインの隣の部分がランイチで、ランプやイチボというわけである。

 

第3章 食肉の流通経路

牛の生体から枝肉を生産した後に残る副産物から、原皮を除いた内臓類を副生物と呼ぶ。関西ではホルモン、関東ではモツなどと呼ばれ、アメリカやオーストラリアでは、ファンシーミートとも呼ばれる。「牛は鳴き声以外に捨てるところがない」と言われるくらい、様々な部位が、そのままで、あるいは加工されて利用されている。

ホルモンは正肉に比べ保存性が低いため広域での流通には適さない。よって生産地域周辺での流通が主体になる。副生物のうち、食用のものは畜産副生物卸売業で取り引きされる。副生物は、と畜解体の段階で副次的に産出されるため出荷をコントロールできない。また検査による廃棄率が高いらしく、歩留まり率も低くなる。よって良いホルモンを継続的に仕入れるのは非常に難しいそうだ。

また正肉には「松阪牛」や「近江牛」などブランド牛肉が存在するが、ホルモンにはブランドホルモンが存在しない。これは、枝肉部分はその流通過程を完全監視するのに対し、ホルモンはその限りではなくトレーサビリティが事実上困難なためだ。だからといって安全性に問題があるわけではなく、高い廃棄率からもわかるように厳しい検査を経て流通しているため安全性は保障されていると思う。ただ正肉と同じく一頭の牛からとれるものであり、正肉同様品質の良し悪しがあるはずだ。むしろその機能を考えれば正肉よりも飼料や肥育状況などが反映される部位と思われる。コストの問題などもあり正肉のように完全監視体制を敷くのは難しいかもしれないが、何か良い方法はないものだろうか。ちなみに、普通はホルモンに分類されるハラミを、松阪では正肉に分類するため、個体識別番号付きの松阪牛のハラミが存在する。また滋賀県の近江牛でも個体識別番号付きのハラミがあるようだ。

流通経路

 

 

 

 

 

取材・撮影協力:株式会社吉澤畜産

題字:深谷利枝

バナーデザイン:株式会社コンソメデザインブロック

 

参考:

『特例財団法人 日本食肉消費総合センター』 ホームページ

『公益財団法人 日本食肉流通センター』 ホームページ

『社団法人 日本畜産副産物協会』 ホームページ