COLUM 不定期連載「肉汁は閉じ込められるのか①」

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「ステーキを焼くときには、最初に強火で表面を焼き固めて肉汁が流出するのを防ぐ」

 

肉好きの方ならこのフレーズを一度は聞いたことがあるに違いない。私もこのフレーズを何度も見聞してきたし、数年前まで疑うこともしなかった。カリッと焼きあげられた表面と、半生状態の内部からなるミディアムレアのステーキ。断面の色のコントラスト、香ばしい匂い、歯が肉に食い込んでいく時のテクスチャの変化、そして口の中に広がる芳醇な肉汁。この状態を生み出すために、“最初に強火で表面を焼き固めて肉汁が流出するのを防ぐ”ことが必要不可欠だと考えていた。もちろん肉汁の流出を完全に防ぐことはできない。それは肉の表面から肉汁が湧き出てくることからも明らかだ。しかし、表面を焼き固めることで、流出しづらくすることはできるのだろう、と思っていた。

本当だろうか。

肉を焼けば焼くほど、この疑問が頭をもたげてきた。ここ数年、厚切り肉を提供してくださる焼肉屋さんが増え、厚切り肉を自分で焼く機会が増えた。また、いろいろなステーキ屋さんを訪れる機会にも恵まれた。昨年には自宅に釜浅商店製のグリラー型焼台も導入し、週末の度に厚切り肉を焼いてきた。自分自身で色々な焼き方を試し、食すごとに、その疑問が頭から離れなくなった。

そして今年の1月、銀座「かわむら」でステーキをいただいたことで、“最初に強火で表面を焼き固めて肉汁が流出するのを防ぐ”というメソッドが、自分の中で儚くも崩れ去った。

そもそも“肉汁”とは何だろう。

いろいろ調べてみたが明確な定義はなさそうだ。肉の主成分はタンパク質と脂肪であり、およそ水分65~70%、タンパク質20%、脂肪10~15%、灰分1%で構成される。生肉の状態で肉を押しても水分はほとんど流出ない。噛んだくらいでは水分が染み出ることはないそうだ。生の状態では、タンパク質に水分を抱え込む性質があり、うま味成分なども水分と一緒にタンパク質に吸着されている。これが加熱されることでタンパク質が変性し、水分を抱え込むことが出来なくなるため、うま味成分などと一緒に細胞外に流出する。つまり肉は、加熱されることで水分が放出されやすくなる性質を持つ。この加熱されたときに放出される、うま味成分を含む水分が一般的には肉汁と呼ばれている。

加熱することで肉汁は必ず放出されてしまう。肉の表面に浮き出てくるものもあれば、蒸発してしまうものもあるだろう。つまり100%肉汁を保持することは不可能だ。そこで問題になってくるのが加熱方法だ。最初に表面を強火で焼き固めることが、肉汁の放出を最小限に抑えるためのベストメソッドなのだろうか。ということでまずは下記のような実験を試みてみた。ちなみに熱源は備長炭、釜浅商店製のグリラー型焼台を用いて実験した。

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①同じ個体の同じ部位を2分割する。

②芯温が55度前後になるまで、片方は表面を焼き固め、もう片方は焼き固めず焼き進む。

③焼き上がりの重量を量り、焼く前の重量から減少率を割り出し、比較する。

 

近所の日山さんでヒレ肉300gを購入し、2分割。片方は160g、もう片方は144g。ちなみに厚さは約5cm。

160gの方は強火で表面を焼き固め、144gは焼き固めず、ともに芯温55度を目指す。

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焼き上がり後の重量だが、

160g→133g(約17%減少)

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144g→128g(約12%減少)

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という結果になった。

ヒレ肉なだけに、途中肉汁が激しく滴り落ちるようなことはなかった。写真は残していないが、共に芯温は55度前後に焼き上げたので、内部の色や食感に明白な違いは見られなかった。

この実験で結論を導くことはできないが、食べた感想としては肉汁量の差は感じられなかった。

厚さ、部位、熱源、芯温などを変えて同様の実験を繰り返してみよう、と思う。

(文責:所長)


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