COLUMN「ハラミ刺しの行方」

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ビーフ・ラボで随時報告してきた「食肉等の生食に関する調査会」の第4回目が6月20日に開催され、厚労省のホームページで議事録が公開された。合わせて同調査会から上位部会である「食品衛生分科会乳肉水産食品部会」への報告書も公開された。

 

ハラミについて、まずは報告書の原文をそのままお読みいただきたい。

○牛の内臓(肝臓を除く。)については、

・ 危害要因が腸管出血性大腸菌であり、危害要因による健康被害の重篤性等が大きいが表面汚染であると考えられること

・ 飲食店等において提供実態があること(胃や腸などは一般的には湯引き処理等がされているが、いわゆるハラミなどの内臓に分類されるものがユッケとして提供されている実態があること)

・ 現時点では、腸管出血性大腸菌について、生食できるほど安全なレベルにまでリスク低減する手法が認められないこと

を踏まえ、内臓表面からの腸管出血性大腸菌の内部浸潤に係る研究を行い、研究の結果、内部までの加熱が必要であることが明らかになれば内部までの加熱、表面付近の加熱等により十分にリスクが低減されることが明らかになればそれを踏まえたリスク低減策を検討し、牛内臓の部位のリスクに応じた衛生管理方法を策定する。

なお、組織学的には枝肉と同様のもの(ハラミなど)が、いわゆるユッケとして提供されている実態があることから、研究結果を踏まえ、これらについて生食用食肉(牛肉)の規格基準の対象となることを明確にすることを検討する。

※報告書8pより引用

予想されていたことだが、ハラミやツラミなどいわゆる筋肉系の内臓については、正肉の生食用食肉の規格基準の対象に組み込まれそうだ。その他の内臓に関しては上記の研究を経て部位ごとに規制方法が検討されることになる。

 

また今回の報告書では、豚の食肉及び内臓の生食を法的に禁止すると記載されている。こちらも原文をお読みいただきたい。

○ 豚の食肉・内臓については、

・ 危害要因がE型肝炎ウイルスであり、危害要因による健康被害の重篤性等が大きく、HEV が血液や筋肉から検出されており内部汚染であること

・ これまでは社会的通念として生食すべきではないことは認識されていたが、飲食店等において提供実態があること

・ 豚は、E型肝炎ウイルスに加えて寄生虫による危害も考えられるが、内部までの加熱以外のリスク低減策が考えられないこと

を踏まえ、法的に生食用としての提供を禁止する(具体的には、豚の食肉・内臓は中心部加熱が必要である旨の規格基準を設定する)。

※報告書8pより引用

つまり牛レバーのような中心部加熱が義務付けられることになる。この結果、豚のモツ刺しは、近い将来牛のレバー刺しのように合法的には食べられなくなるということだ。某店の特選刺身盛り合わせが食べられなくなると思うと切ない。

 

筆者としては、今回の措置に関して理性的には納得できるものの、感情的にはやりきれないというのが本音だ。筆者が幼少のころは、生レバーやユッケなどは“大人の食べ物”であり、こどもが軽々しく食べられるものではなかったし、社会人なりたての頃も牛肉の刺身などは高級な嗜好品であった。こんなに一般的な食べ物になったのは、牛角などのチェーン店が普及してきた90年代後半からと記憶している。一部ファンの食べ物が一般化した結果公衆衛生上のリスクが高まり、平成23年のユッケ集団食中毒事件のような痛ましい事態が起きてしまった。筆者の感覚では、チェーン店で生肉や生の内臓を食べるのはリスクが高いと感じていたが、“お店で出しているものは安全だ”という盲目的な信頼が現在の一般的な消費者の感覚なのであろう。また効率や儲けを優先し、食の安全を二の次にするような飲食店が存在することも事実だ。であれば、このような措置をとることはやむを得ないと思う。ただ、これまで一生懸命に安全でおいしいものをお客さんに提供してきた一部の業者さんが割を食うのはやりきれない。やはりイタリアのスローフード運動ではないが、お客さんの顔が見える範囲での商売が大事なのではないだろうか。本来お店とお客さんの間に良質な緊張関係があれば、こんな規制は必要ないはずだ。そして食べ物を選ぶ自由は消費者側にあるべきであり、リスクについても消費者側がきちんと認識したうえで選択するのべきである。確かにグローバル化が進んだ現代では、最近起きたチキンナゲットの事件のように、食の安全を消費者側だけで判断することは不可能かもしれない。でも、だからこそ、消費者側の食に対する成熟が必要とされている気がしてならない。

などと偉そうなことを書いてしまったが、やっぱりハラミ刺しが食べづらくなると考えると、なんともやりきれない気分になってしまうのだ。

文責:所長

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