STRUCTURE 「加古川食肉センター」
一昔前に比べて魚を食べる量が減り、スーパーでは切り身中心のラインナップの現代において、魚は切り身で海を泳いでいると思っている子がいるそうだ。ではお肉の場合はいったいどうなんだろう。子供達だけでなく大人もどうやってあの大きくて可愛い牛が私達の食卓に上る姿になるか知っているだろうか。普段私達が当たり前のように食べているお肉についてもっと知る必要があるし、もっと知りたくて、牛からお肉への『架け橋』とも言える牛の屠畜を加古川食肉センターで見学させていただいた。
なお、当日は写真を撮らせていただいたが、食肉センターさんとの約束により今回は写真は掲載しない。その代わりに、同じ加古川食肉センターを以前見学し、屠畜のイラストを描かれたナオヤさんの許可をいただき、そのイラストをここに掲載したと思う。
出典:「いただきます絵本プロジェクト」
http://itadakimasu.agasuke.net/beef01/
《食肉処理工程》
①受付
処理場に搬入された牛は、耳標・種類・性別・産地・年齢・移動履歴等を確認の上、生体検査・解体前検査に合格したものだけが屠畜される。
食肉センターに着いてまず最初に目に入るのがこの搬入されて通路に並んだ牛である。
どの牛も十分に仕上げられているようで、肩は筋肉質で胴体は大きく張り出し、堂々とした体格をしている。
それと同時に全ての牛が優しく目をしていて、なんとも言えない可愛らしさを持っている。
また体が泥で汚れているような牛は綺麗に洗ってもらっている。
この日並んだ牛のほとんどは黒毛和牛であったが、中にはF1も混じっており、おでこの毛がハート型に白くなっている牛もいた。
②屠殺・放血
牛にできるだけ苦痛を与えないために、ノッキングと言って、牛を打撃銃で失神させた後にナイフで動脈切開し放血させる。
ノッキングにより失神した牛はその重量を支えられずに一気に床に倒れ、一瞬で放血される。
そして放血が終わるか終わらないかの内に顔の皮までナイフで剥がされていく。
この一連の作業のあまりの手際の良さに驚かざるを得ない。
③懸吊
衛生的な処理を目的として、後足をフックにかけ、ラインと呼ばれるレールに吊るし、このライン上で以後の処理が行われる。
フックで引っ張り上げられると、牛の巨体はいとも簡単にレールに吊るされる。
そして、このようにレールに吊るすことによって食肉のより衛生的な処理が可能となる。
④剥皮
吊るされた牛を次の工程の場所へ移動する間に大きなカッターで角や前足が切断されていくのだが、そのカッターの切れ味の凄いこと。
そして皮を剥ぐ。
皮を剥ぐ工程では巨大なローラーに皮の端っこを挟むことから始まる。
皮を挟んだローラーの回転により牛の体から皮が引っ張られ、その間の部分にナイフをあてると、あまり力を使わずに綺麗に皮が剥がれていく。
完全に剥がされた皮は専用の通路に吸い込まれて施設外の皮置き場まで一気に運ばれここで皮業者の引取りを待つようだ。
皮を剥がされ真っ白な脂肪が露になった牛は、念入りに残った毛などを除去され、徹底的に衛生な処理がされている。
⑤内臓摘出
まずは頭部、尻尾を切り落とし、BSE検査の為に脊髄を除去される。
そして真っ白になった牛は腹部と胸部を切開して内臓を取り出される。
その際にはあらかじめ食道と直腸を結さつしてある為、胃や腸の内容物が漏れ出さないようになっている。
内臓摘出も2段階に分かれており、最初は白物と呼ばれる胃や腸を摘出し、続いて赤物と呼ばれる心臓や肝臓が摘出される。
白物の摘出は、お腹を切開した瞬間に一気に下の受け皿に落ちる。
赤物については作業員の方が取り出しているようであった。
ここで摘出された内臓は検査を受け、合格したものだけが処理される。
⑥背割り
内臓を摘出された後、大きな電動ノコギリで体を2つに分割される。
人間の力では持てないような大きなノコギリは天井から吊るされ、それを使うといとも簡単に巨大な体を2つに分割することができる。
ここまで来ると、普段我々が見ている枝肉と同じ状態である。
違うと言えば、冷蔵庫で冷やす前なので霜降りと呼ばれる網目状の脂が浮き出ていないことだろうか。
最後は全体を綺麗に洗浄し、冷蔵庫へと運ばれていく。
初めて屠畜の過程を見て驚かされるのは、まずその清潔感だった。さすがに薄暗い部屋で血が滴っている状態を想像していた訳ではないが、1つ1つの工程が想像以上に丁寧かつ手際が良く、腸の処理や付着物の除去など素人には十分すぎると思えるほど徹底した衛生管理がされている。BSEの危険部位の除去はもちろん、毛や汚れが付着しないように細心の注意とともに作業が進められていく。
また、その作業は流れ作業ではあるが、熟練の職人さんからまだ若い職人さんに至るまで、経済動物だからといって決して粗末な扱いはなく、当たり前かもしれないが、大事に大事に扱われ、牛への感謝の想いすら伝わってくるようだ。
この屠畜という工程を見学させていただく前は、もっと機械的というか工業作業的なイメージを抱いていたが、実際には人の手によって全ての工程が行われていた。
きっと皆さんは牛が好きだし肉も好きなんだろう。
牛に限らず家畜等の屠畜は昔から閉鎖的な雰囲気で見ることのできないカーテンの向こう側と感じる消費者が多いのではないだろうか。そのカーテンをめくって覗き込んだ世界は1頭1頭丁寧に扱われ、生産者が心を込めて育てた牛を我々が食べる肉へと生まれ変わらせる行為であった。生産性だけを追及したような作業ではなく、この職人技で磨きをかけるような動き。何も知らない頃に私が勝手にイメージしていたような暗いイメージは全くなく、和牛肥育と同様に伝統文化と呼べるような世界が広がっていた。なんだかこの業界の明るい未来を感じるようで私は嬉しくなってしまった。
生産者が牛に込めた思いが、屠畜の作業を行う職人さんにしっかりと伝わっているのが分かるし、それを見ている私にも生産者や屠畜の職人さんの気持ちが伝わってくるようだ。今まで個人的に抱いていた生産者へのリスペクトが、こういった職人さんにも広がった瞬間、普段肉を食べて感動する理由を理解した。牛から肉まで、係っている全ての方の思いが詰まっているからこそ、あれほど素晴らしい物が世の中に出回るのだ。 また、牛からお肉に変わっていく一連の工程を見ていると、命ある牛をお肉に変えて我々人間が頂いているのだから、決して粗末にしてはならないということを再認識する。牛からお肉への『架け橋』である屠畜が、一般の消費者とあまりに遠いところにあるために、こういった当たり前のことが実は感じにくい世の中なのではないだろうか。
最後にこうした貴重な体験をさせていただいた加古川食肉センターの関係者の方々に深く御礼を述べたいと共に、こういった見学のできる施設がもっと増えることを切に願う。
(文責:CBO)